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し層をターゲットとする政策の必要も強調しておかねばならない。A.K.センのいう食料エンタイトルメントを重視する戦略である9。
かかる政策の代表は、食料の公共配給制度、人件費構成の高い公共土木事業(賃金支払を小麦の現物で行う事業をFood for Worksと呼ぶ)、学校給食や登校した児童への食料配給(Food for Education)、自己雇用促進のための低利融資などである。最後の融資制度では、インドのIRDPやバングラデシュのグラミン銀行が有名である。こうした土地なし雑業層に対する融資の効果はよく知られている。表5は、同額の財政支出を、工場の農村誘致、灌漑、IRDPの水牛プロジェクト、IRDPの自営業プロジェクトにそれぞれ振り向けた場合の直接・間接の所得創出効果を、SAM法によって評価したものである10。IRDPの土地なし層へのインパクトの大きさは明白である。
筆者はバングラデシュの農村金融の調査経験から、グラミン銀行融資が必ずしも政策意図通りに自己雇用機会を生み出しているわけではないことを知ったが、同時に、低利融資へのアクセスが別の形で大きな利益を生んでいることも判明した。すなわち融資を受けた貧困層は、資金を土地投資(land pawning)に振り向けて「自作農化」し、飯米を安定確保する戦略をとっているのであるが、これはグラミン銀行が事実上、土地改革を推進しているのと同じことになる11。M.ホセインは、グラミン銀行のメンバーになって3〜4年後には、平均約30%の所得増が達成されたとする調査結果を公表している12。
以上のように何らかの政策手段によって、農村土地なし貧困層の所得引上げに成功すれば、それはP.ダスグプタが主張するように13、環境劣化と人口増加の悪循環の環を断ち切る契機ともなり得る。典型的には燃料である。南アジアの農村では燃料の大部分をバイオマス資源に依存しているが、年々枯渇のスピードが速まっている。そこで燃料を集める安価な労働力として子供に期待がかかることになる。燃料の確保が多産の誘引となり、結果としての人口増加がさらに環境劣化を引き起こす。かかる状況で子供に教育をつける余裕が生まれることはない。ダスグプタは、たとえばグラミン銀行がこうした悪循環を断ち切ることを期待しているのである。

 

 

 

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